宮部みゆき『模倣犯』

宮部みゆき模倣犯
どうも氏は世の中に深い絶望を抱いているらしく、作中のキャラクター全員の思想が一貫していない。善人はどこまでも善人というわけではなく、悪人はどこまでも悪人というわけでは──いやピースに関してはどこまでも悪人ということかもしれないけれども──ない。昔の僕は(正確には今の僕も)いらいらしていて、耐え難かったのだけれども、そういう思想があるということは理解できた。
以下、作中のお見合いに関するエピソード。
「大叔母は悪い人ではない。世話焼きで気持ちの優しい人だ。だが、それだからこそ、今年の集まりの場で、彼女が大きな声を出して、総領息子に危うくとんでもない娘を押し付けてしまうことになるところだった自分の眼鏡違いについて語り、謝り、大騒ぎをするところを、篠崎は見たくもないし聞きたくもない」(文庫『模倣犯』4巻388ページ)
雑な引用のため、ぜひとも原典に触れていただきたいところだが、イメージはつかめると思う。
僕はこの大叔母を『悪い』人だとまでは言わなくても、「世話焼きで気持ちの優しい人だ」とは決して思わない。優しい人はお見合いで誰かを紹介するというときに(たとえ事後的にその縁談がマイナスのものだったとしても)「押し付ける」なんて言葉は使わないからだ。
しかし、氏の思想の中ではこれが普通なのだ、どんなに善人でも邪悪なところはあるのだ、そう宮部みゆきは世界を把握しているのだ、と考えると寒々しさに慄然とする。こわいわあ。やさしいひとがすきです。

評価:A−(余談だけれども、欠片も! 寸分も! 推理小説じゃなくて困った。宮部みゆきさんはミステリ作家じゃなかったのか?)


ネットサルを甘く封印。積み本がたまっているのだわ。