隆慶一郎『吉原御免状』

隆慶一郎の俺ワールドっぷりにびびる。
歴史小説というのは僕たちの歴史を描いたものじゃなかったのか?

まず主人公が宮本武蔵に子供のように育てられた最強の弟子。すごくツッコミたい設定ですがツッコミません。その上実は**の***だった! というびっくり話にも驚きません。ジャンプ漫画の特異な出生の秘密に比べれば凡庸です。この作品を執筆したのが当年たって六十一歳地点・デビュー作というのに若干の「おや?」を感じますがまだ許容範囲内です。初期設定ですからね。

勿論、ジャンプで『影武者徳川家康』の洗礼をうけた僕ですから、本物の徳川家康は関が原で死んでいてその後は影武者が代役にたっていた、ぐらいでは驚きません。いや驚きますけど(「この設定、別の作品でも『生き』なんだ!」)、知っているのでそこまでは驚きません。驚くけど。

そして畳み掛けるように「明智光秀は実は生きていた」「南光坊天海、その正体こそが明智光秀」!

調べたところ、「光秀=天海」説はそれなりにメジャらしくてしょんぼりしたのですが(google検索で大体「義経 チンギスハーン」と同程度のヒット数だった)、それでも僕の感じたインパクト優先で書かせて頂きますと、「こんなものを六十一歳が書くんじゃない」。


昔、二十歳を超えて少ししたとき友人に言われたこんな言葉を思い出した。
「もしかしたら僕たちは一生こうなんじゃないだろうか。変わらずジャンプを読んでゲームをして適当なことばかり言う。いわゆる『大人』には生涯なれない。しかし、僕は思うんだ。その人生は結構楽しいんじゃなかろうか、と」


たぶん隆慶一郎はそうだったのだと思う。羨ましいかぎりだ。