筒井康隆『文学部唯野教授』

筒井康隆文学部唯野教授』読了。
大学ネタの洒落本の類と思って読んだら文学批評の本だった、というわけでもなくて双方併せ持った本だった。
文学批評とは何か、などというと実に偉そうで素敵なのですが、「文学部の学生は一体何をやっているのさ」とたまたま最近の僕(文学部在籍・四年生・もうじき卒業)は悩んでいたので実にタイムリーでグッド。
そもそものスタートは「小説の面白いのを書いた人はきちんと誉めてあげるべき。で・誉めたり貶したりするためには基準が必要なわけで、さあ基準を定義しよう」だったのですね。
そっから色々な文芸批評論が現れて・あれもだめ・これもだめ・で・「脱構築ならばだめではないのでは?」とふと気付けばそれは既に批評ではなく2次創作だったぎゃふん、という流れが理解しやすく描かれている。
大学助教授さまの講義を聴きながら「実はこれはこういうことなのでは?」とか僕が思ってたことが肯定されていたので僕は自尊心を満たすことが出来、満足した。僕を肯定するとは中々筒井康隆も捨てたものではない。

物語は唯野教授を主人公として進むのだが、その彼がする「講義」という形で文芸批評の話が入る『ソフィーの世界』方式。しかし、『ソフィー』のほうが高尚に高尚にコジャレコジャレと進んだのに対し、『唯野教授』は下品だ。同じことをやるのならば高尚よりも下品なほうが偉いのは自明のことなので、自明である。自明だ。そう感じた。

そしてもっと偉いのは「唯野パート」と「講義パート」の使い分けが小説的価値をもっているところなのだが──整理できてないからその辺の話は出来ないのであった。無念。

評価:B+